「資産凍結」とは何か
資産凍結とは、口座名義人や不動産の所有者が認知症などで判断能力を失うと、本人以外がその財産を動かせなくなる状態を指します。銀行は預金者本人の意思確認ができないと、たとえ家族であっても預金の引き出しに応じません。不動産も同様に、所有者本人が売買契約の内容を理解し意思表示できる状態でなければ、売却手続きを進めることができません。
「介護施設の入居費用を実家の売却資金でまかなうつもりだったのに、いざそのときになったら手続きが止まってしまった」——こうした事態は、実家じまいの相談の現場でも実際によく聞かれるケースです。
家族信託は「相続」とは違う制度
まず整理しておきたいのは、家族信託は相続の手続きではないという点です。相続登記や遺産分割協議は、親が亡くなった後に発生する手続きです。一方、家族信託は親が元気で判断能力があるうちに結ぶ、生前の契約です。
「実家の相続についてどう備えるか」を調べていると、相続登記の義務化や遺言書の話と一緒に家族信託が紹介されることが多く、混同してしまう方も少なくありません。しかし目的も使うタイミングも異なる、別の制度だと理解しておく必要があります。相続そのものの手続きについては相続登記の義務化(2024年)についての記事で詳しく解説しています。
家族信託は「成年後見制度」とも違う制度
もうひとつ混同されやすいのが、成年後見制度です。どちらも「判断能力が低下したときに備える」制度という点では共通していますが、仕組みは大きく異なります。
| 項目 | 家族信託 | 成年後見制度 |
|---|---|---|
| 始める時期 | 判断能力があるうちのみ | 判断能力が低下した後(法定後見の場合) |
| 財産を動かす主体 | 契約で定めた家族(受託者) | 家庭裁判所が選任した後見人 |
| 不動産売却などの自由度 | 契約の範囲内で家族の判断で可能 | 家庭裁判所の許可・関与が原則必要 |
| 継続的なコスト | 設定時が中心(契約内容による) | 専門職後見人が就く場合、月額報酬が継続的に発生することが多い |
| 身上監護(介護契約等の対応) | 原則対象外 | 対象 |
成年後見制度は、判断能力が低下した後でも利用できるという意味では「最後の砦」になる制度です。一方で、実家の売却のような重要な財産処分には家庭裁判所の関与が必要になるため、「本当は実家を売って介護費用に充てたいのに、なかなか手続きが進まない」という声もよく聞かれます。家族信託は、こうした事態を避けるために、判断能力があるうちに家族間で柔軟な取り決めをしておく仕組みだと理解すると分かりやすいでしょう。なお、財産管理以外の身の回りの契約(介護施設との契約等)が必要な場合は、家族信託だけでなく成年後見制度もあわせて必要になることがあります。
家族信託には法的効力がある
本サイトのエンディングノートの記事でも触れていますが、エンディングノートには法的効力がありません。あくまで本人の希望や意思を書き残す備忘録であり、遺言のような法的拘束力は持ちません。
これに対して家族信託は、信託法に基づく正式な契約です。一般的には公正証書の形で契約を結び、不動産であれば信託の登記(名義変更)を行うことで、契約内容に沿って家族が財産を管理・処分できる法的な権限を持つことになります。「気持ちを書き残す」エンディングノートと、「実際に権限を移す」家族信託は、似ているようでまったく役割が異なる点を押さえておくとよいでしょう。
家族信託を始める一般的な流れと費用の目安
家族信託の設計・契約には専門的な知識が必要なため、司法書士や弁護士などの専門家に相談しながら進めるのが一般的です。おおまかな流れは次のとおりです。
- 家族間で「誰の・どの財産を・誰が・どう管理するか」を話し合う
- 専門家に相談し、信託契約の内容(信託目的・財産の範囲・受託者・受益者等)を設計する
- 公正証書で信託契約を締結する
- 不動産があれば信託登記を行う。信託専用の口座を開設する場合もある
- 契約に基づき、受託者(多くの場合は子など)が財産を管理・処分する
費用は財産の内容・規模や依頼する専門家によって幅がありますが、専門家への相談料・契約書作成費用・公正証書作成費用・登記費用などを合わせて、一般的には数十万円〜百万円程度が目安とされることが多いようです(信託する財産の評価額に応じて変動します)。正確な費用は、実際に相談する専門家に個別に見積もりを依頼して確認してください。
家族信託について専門家に相談してみませんか
「うちの実家の場合はどうすればいいか」は、家族構成や財産の内容によって大きく変わります。家族信託に詳しい専門家に、まずは無料で相談してみるのも一つの方法です。
【おやとこ】家族信託の無料相談はこちら「まだ早い」と感じる今が、実は検討のタイミング
家族信託の最大の注意点は、判断能力が低下してからでは契約を結べないということです。「まだ元気だから」「そのうち考えればいい」と先延ばしにしているうちに認知症が進んでしまうと、選べる選択肢は成年後見制度だけになり、実家の売却や資産の柔軟な活用が難しくなってしまいます。
次のような状況に心当たりがある方は、早めに検討を始める価値があります。
- 親が実家を含む不動産や、まとまった預貯金を持っている
- 将来、介護費用や施設入居費用を実家の売却でまかなう可能性がある
- 兄弟姉妹など相続人が複数いて、将来の財産管理でもめたくない
- 親はまだ元気だが、認知症の家族歴がある・もの忘れが増えてきたと感じる
- すでにエンディングノートを書き始めているが、法的な備えも検討したい
実家がすでに空き家になっている、あるいは相続が発生した後の具体的な対処法については、実家じまいの進め方や空き家診断ツールもあわせてご覧ください。家族信託は、そうした状況になる前の備えとして位置づけられる制度です。